訛り、金策、春の公園。1963年。『誘拐』

上野駅に近いところ、という条件で物件を探していた一昨年の春、公園の傍のマンションの一室を内見したことがある。窓を開けてみると、そこで遊ぶ子供らはもちろん、親たちの立ち話が聞こえてくるくらい、公園が近かった。結局その部屋を借りはしなかったのだけれど、後になって、あの公園が「吉展ちゃん誘拐事件」の現場だったと知った。犯人からかかってきた脅迫電話の録音を、言語学者が分析し、茨城か栃木か「郡山以南」の福島の出身者だろうと推定するくだりがある。栃木出身である私はどきりとする。それらの土地にも、上野界隈にも、今とは比べものにならないほどありありと影が落ちていた頃を克明に描き出す、骨太すぎるルポルタージュ。

木村 衣有子(文筆業)

『文學界』で「BOOKSのんべえ」、『サンデー毎日』で「食べて、飲んで、読む」と、飲食書評エッセイ連載中。
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