失ったものの永遠の恍惚『薬指の標本』

好きなもの、美しいものを手に入れて、自分のものにしたときのうれしさ。それが長い時間煮詰められ、すばらしいエキスとなり、言葉を奏でている。小川洋子さんの文章の一行一行がとてもよくて、そのように感じながら読みました。『薬箱の標本』は、女子専用アパートだったという古い建物の中で秘かに作る続けられている特殊な標本製作所が舞台。一筋縄ではいかないものものが次々に標本になっていく……ぞくぞくする設定ですが、どんどんぞくぞくしてゆきます。静謐という言葉がなによりも似合うしずかな文体なのですが、その芯はものすごく熱くて官能的で、苦しくて、切ないです。

東 直子(歌人、作家)

歌集『春原さんのリコーダー』『青卵』がちくま文庫に、エッセイ集『愛のうた』が中公文庫に蘇ります。それぞれ、川上弘美さん、穂村弘さん、西加奈子さんに巻末対談をしていただきました。よろしくお願いします!