目の前に介護老人が押し出された臨場感。『恍惚の人』

『恍惚の人』(有吉 佐和子新潮文庫/670円 + 税

目の前に介護老人が押し出された臨場感。

1972年の小説である。主人公の昭子は「職業婦人」。明治の男である舅に嫌味を言われ続けた。仲を取り持ってきた姑が倒れ、昭子は舅と相対せざるを得なくなるが、その時にはすでに舅の痴呆が始まっていた……姑の死に伴い、昭子ひとりに降りかかるありとあらゆる家事、行事、親族からの小言、そして介護。そこに、感傷的だったり著者の主観を出した描写は一切ない。ひたすらファクトを積み重ねてくる臨場感に押されて、読者は疾走するように家族と介護の物語を読むことになる。昭子と舅の最後の大仕事が盛大な排泄の処理というのも、苛烈であり、40年以上経っても全く古くなっていない家族の物語の出口としても相応しいと思う。

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