ひたむきに生きたくなる。『草すべり その他の短篇』

『草すべり その他の短篇』(南木佳士文春文庫/571円 + 税

ひたむきに生きたくなる。

大病院の勤務医として、小説家として多忙を極めるなか、パニック障害に襲われ、のちにうつ病を発症した南木佳士さん。そんな10年来の心身の不調のなか50歳にして登山に開眼、その経験をもとに書かれたのがこの短篇集『草すべり その他の短篇』です。登山の物語というと、冒険活劇や遭難、初登頂といったドラマチックな展開を想像しがちですが、この本に描かれるのは、真摯に生きる人々が一歩一歩踏みしめながら山を登っていく静かな世界。この本が気に入られたら、ぜひ南木さんの紀行文『山行記』も。「山行記を書くのはこれをかぎり」と『山行記』のあとがきにありましたが、あまりにもったいない。ぜひまた山のことを書いてください、南木さん。

岸本 洋和/平凡社

科学と文芸を横断するシリーズ『STANDARD BOOKS』の編集担当です。最新巻は、生誕150周年を迎えた知の巨人・南方熊楠。中高はワンゲル部でしたが、最近はすっかり地図を見て登山を夢想するだけになっています。今年こそは……!