東京空襲の続く夜、杉並のある町で、妻子を疎開させた男と19歳の娘に何が起こったか。谷根千でかつて聞いた話と重なる……『この国の空』

『この国の空』(高井 有一新潮文庫/550円 + 税

東京空襲の続く夜、杉並のある町で、妻子を疎開させた男と19歳の娘に何が起こったか。谷根千でかつて聞いた話と重なる……

東京大空襲を描いて『この国の空』ほど精密な小説は知らない。隣組、縁故疎開、配給、建物疎開など、実態が手に取るようにわかる。いくら先行きが知れぬとはいえ、刹那に生きていいのか、という問いは残るが……。町には疎開できない立場の人々しか残っていなかった。町の顔役、戦争には行けない歳の男、未亡人、勤労動員された女学生。明日の命の保証がなく、協力しなければ生きていけない町で、何が起きたのか。家を焼かれ、夫と子供を亡くした女に親族までもが冷たい。これもかつて谷根千取材でたくさん聞いた話。でも、でも、里子には教師になるという夢を母に逆らって持ち続けて欲しかった。高井有一は集団学童疎開を描いた『北の河』で芥川賞、本書では谷崎賞を得たが、惜しくも昨2016年没。

森 まゆみ/作家・編集者・谷根千記憶の蔵主宰

北朝鮮からのミサイル発射の翌日,宮崎の森まで新田原飛行場の発着訓練の轟音が響いてきました。戦争になる前に戦争を止めなければ。かつて反戦を貫いた群れなす星を描く『暗い時代の人々』(亜紀書房)。日清戦争に勇んで従軍したものの軍隊に失望した正岡子規の評伝『子規の音』(新潮社)。お読みいただければ幸いです。